製造業 経営コンサルタントの井上です。
2021年現在、世界の自動車産業がEV化を大きく推進すべく、産業の変革が起こっている歴史的転換点にいることを実感できる。更に、工作機械業界もDMG森精機やヤマザキマザックが中国工場拡充を進め、工作機械ですら現地生産化進む時代になった。
その様な時代で、国内製造業、特に部品加工業(金属加工:切削加工、板金加工等、樹脂加工など)の今後の生き残りに関してどの様な戦略・ポイントがあるかを考察していきたい。
また部品加工業に関するいつくかの記事もぜひ参考にしてみて下さい。
国内の部品加工業・製造業の生き残る為に必要なポイント
海外の部品加工業者との競争が本格的に始まる
多品種少量〜中量での機械部品等の4M変更管理やトレーサビリティが必要でない部品に関しては、品質要件を守ってあればOKな場合「コスト」「納期」への対応ができれば国内外どこで製作・加工しても問題はありません。現実、既に多くの部品が海外で加工されて国内メーカーに輸入されています。
最近、ある部品加工業のベンチャーの調達関係のプラットフォームの経営者と打合せをしているときに、大企業の調達は「国内外どこから調達しても良いから、安いものが欲しい」と言われていると話されてました。
これは日本国内の製造業を守らなければいけないのでけしからん!と怒っても意味がありません。経済活動としても、至極、当たり前のことです。思い起こせば、20年程度前に起こった商店街活性化を国を上げてなんとかしなければと言っていた時代を思い浮かべます。商店街は場所の制約があるので変化は難しいですが、製造業はそこまでの絶対的な制約は無いのです。
またここ数年、自社の工場・設備だけでなく、外注を有効に活用した部品加工サプライヤー(プラットフォーマー)の台頭が目覚ましい。
昔で言えばブローカー的な存在の会社が、海外の加工業者で加工させて部品を輸入して国内の製造業に納めることをしている。数年前までは、まだ一部の部品を海外で加工しているというレベルでした。ここ数年、海外特に中国に部品加工のサプライヤーを開拓して、QCDの面でしっかりと監査をしパートナーにしている会社の業績が伸びている。
一昔前は、中国での切削加工では納期は早いが品質のバラツキがあり、国内で手直しが頻発ということが起こっていましたが、現在は品質レベルも納期も当然価格も高いレベルになっている。
海外の部品加工業を使い国内の製造業に切削加工品を提供していく企業は、より「品質」を担保する為に検査を自社で行うことを徹底している。会社によっては、測定業務の受託をしている会社もある。
「価格」は当然に安く、「納期」の管理もしっかりと行い、「品質」も社内で検査することを徹底して、QCDの条件を満たしていくブローカー的企業が成長をしている。売上を30億を超えている企業もある。
今後はこの様なブローカー的企業が、国外の部品加工業の代理店的な立ち位置となり、国内製造業を駆逐していくことが懸念されます。
ただし経済的側面から見たら正しい経済活動です。(何度も言いますが)
今後、どのような対策をすべきなのか、何がポイントになるのかを述べたいと思います。
4M変更管理・トレーサビリティが重要に
4M変更管理が必要、またトレーサビリティが必要な仕事に関しては、当面しばらくは国内に残る可能性は高いといえます。
前章で述べましたが、Q「品質」C「コスト」D「納期」だけの要件で国内外の加工業を比べれば、多くは海外の部品加工業の方が強い会社が増えてきています。
トレーサビリティに関しては、近い将来、海外の多くの加工業で実現してくる筈です。ただそれを信用するかどうかは、国内製造業はなかなか受け入れられないと思います。
4M変更管理が必要、トレーサビリティが求められる部品は、航空機部品や半導体製造装置など加工自体が難しく管理が必要な分野になり、中小企業今後参入できるかという点に置いてはかなり難しい分野と言わざるを得ない。
更に、部品加工業は受託加工業なので、仕事を頂いている会社(メーカー等)が国内生産を維持するということが上げられる。自動車業界の部品加工業(切削加工等)は、4M変更管理やトレーサビリティはしっかりやられているが、先程述べた通り、仕事を発注しているメーカーが国内に残るという前提があり、自動車はエンジン部品が減るのが確実な状況とEV化に伴い、より現地生産が進むことが予想されるので、4M変更管理・トレーサビリティができていてもこの前提条件を満たしていないので、より厳しい分野になります。
4M変更管理・トレーサビリティに適した分野の部品加工を行っているいるから将来に渡って安泰とは言えません。これは受託製造業の宿命で、仕事をもらっている製造業が海外に進出してしまったら、海外についていくしか道がなくなるからです。
顧客の業界・分野が海外現地生産化をしないことが前提
4M変更管理・トレーサビリティに適した分野の部品加工を行っているいるから将来に渡って安泰とは言えません。
受託製造業の宿命で、仕事をもらっている製造業が海外に進出してしまったら、海外についていくしか道がなくなるからです。先程も自動車業界の例をしましましたが、現地で雇用が生まれるような産業に関しては、国内で生産して輸出するということだけでは、済まされずメーカーが政治的な観点などから現地生産を余儀なくされるケースも多くあります。代表的な業界は、自動車産業です。
ハイテク分野でも人的作業が多いスマホの組立作業なども、海外生産にシフトしている例はいくらでもあります。代表的な件としては、サムソンのベトナムでの生産が上げられます。
多くの産業が発展途上国などに生産を移管して、それに伴いサプライヤーも現地で生産を初めていく。その積み重ねでサプライチェーンが構成されて、徐々にレベルが上がっていく。これは加工技術だけでなく、管理面でのレベルも上がっていく。最近では、システムでできるレベルも広くなり、用意に管理をシステムの力を借りて実施することも簡単になってきた。システム開発などは、ベトナムなどで開発するオフシェアが常識となり、ベトナムのシステム開発ベレルも相当上がっている。
このようにハード面、ソフト面に関わらず、現地生産化や時代とともに発展途上国と言われてた国での作業レベルが格段に上がっている。現地の人件費は確かに上がっているが、まだ日本の水準になるには時間がかかる。日本の製造業が凄い「Japan as No.1」と言っていたことはもう既に過去の話になっているという現実をまずは受け入れる必要がある。
話を戻すと、国内で生き残る為の一つのポイントとしては「4M変更管理」「トレーサビリティ」が必要な仕事を取ることが必要です。ただ顧客が国内生産を続けるということが重要なもう一つのポイントになります。
デジタル化で「職人」も「コモディティ化」が進む
部品加工業のソフトウェアでの自動化
デジタル化が「職人」の領域を急速に狭めていく時代になってきました。
これに関しては、まずソフトウェアの進化についてですが、これは当然CAD/CAMの進化によりプログラミング作成支援の環境がどんどん良くなって来ているということ。これは対話式のプログラミングも同様ですね。更に自動プログラミングが進むことは必然になっていきます。
これに関しては、過去に記事にまとめているので、詳しくはそちらを御覧ください。
要約すると、金属加工業は顧客の問合せから、積算見積り、図面指示など、ビジネスプロセスが3DCADとインターネットの活用で大幅に進化してきています。
3DCADデータを入稿・解析・積算をすることで瞬時に見積もりが出せ、人的な作業が限りなくゼロになるビジネスモデルです。打合せが無くなり、オレンジ色枠のプロセスがシステム化されて自動になっています。(納期は加工の内容に違ってきます。参考までに〜10日としております。加工により3日とかより短い納期の加工品もあります。)
自動化の進展は今後は、下記のようにほぼ全自動化が進んでいます。
肝になることは自動積算及び工程設計→プログラミングのソフトウェアの部分になります。マシニング中心にできるようになるでしょう。5軸が有利にありますが、設備投資等に課題がでます。物理的な自動化はロボット等による自動化です。
「少量多品種(試作)」を得意としていた中小の部品加工業が、システム化されたプラットフォームやDXを推進できた加工業がQCDで勝り、DX化が出来ておらず、小回り対応など抽象的な強みだけでは中小部品加工業は生き残りが厳しい時代になってきています。
部品加工業のハードウェアでの自動化
部品加工業においても今後は、ハード面での自動化が必須になる。
要はロボット化。切削加工業で今進んでいる工程は、ロード、アンロードの部分をロボットによるバイスやパレットによるロード、アンロードです。私の関係先でも、数社ロボットを活用した多品種小ロット対応のロボットを導入している会社があります。(図の緑色部分)
今後はワインレッド色(?)の部分の洗浄やバリ取り、検査工程まで自動化していくことになっています。要は、人間でやるべきこと、ソフトウェアでやりべきこと、機械でやるべきことをしっかりと分けて、自動化できる部分は積極的に取り組んでいくことが競争力に繋がって行きます。
これまたいつも出している図ですが、機械やシステム、今後出てくるAIもあくまでもツールです。そのツールを使いこなすことが、求められています。それ以外で、人間がやるべきことに関しては「標準化」と「教育」を今以上に進めて行く必要があります。
まとめ
現在、日本企業も海外の現地生産が進み徐々に現地サプライヤーのレベルが上ってきている。また国内において海外調達を得意とする部品ブローカー的な企業が「品質」をしっかり担保する為に、受入検査を国内で行いQCD全てにおいて保証するビジネスモデルが増えてきている。
この様な状況の中、国内で部品加工業生き残る一つのポイントとして、4M変更管理やトレーサビリティができる体制を持つ加工業になること。また4M変更、トレーサビリティを求められる業界・企業からの受注を取る力が求められる。
更にソフト面、CADCAMはもちろん、自動積算・自動プログラミングソフト等の活用が今後できること。ハード面においてはロボット等の活用による自動化システムを構築することが求められる。
当面は海外の方が人件費が安い、その中で自動化できる部分はしっかりと自動化してコストダウンに寄与する活動が求められる。デジタル化によるソフト面で自動化できるということは、職人のノウハウを継承できる可能性も含まれています。
【コラム】デジタル化時代の人材育成・教育シリーズ
< 目 次 > 第1回目:デジタル化時代の「ものづくりは人づくり」とは? 第2回目:今後の中小製造業の仕事は誰がやるのか? ◆「機械・ロボット」にさせる仕事 ◆「システム・AI」にさせる仕事 ◆「人間」がするべき仕事 ・誰でも出来る化 ・高度な専門職(職人) ・管理職 第3回目:中小製造業の人材育成・教育の実態 ◆大手に比べて人材の質も比較すると低く、教育の仕組み化も弱くのに教育していない現実 ◆OJTという名の丸投げ無責任体質で「教育品質」のバラツキが大きい ◆ISOでの形だけの教育計画 第4回目:「御社の社員の一人前基準・目安」は何ですか? ◆何が求められるスキルなのかを明確にする➜目次化 ◆職種別の一人前基準を明確にする ◆「一人前基準」は自発的に伸びる社員の道標になる ◆部品加工業におけるスキルマップの事例 第5回目:人材育成・教育は、コンテンツ化が重要。コンテンツ化して「資産化」しろ! ◆「目次」が出来たら、項目ごとに「コンテンツ化」しろ ◆デジタル化した「教育のコンテンツ化」はアップデート可能な「資産」 ◆「コンテンツ化」の手段としての「動画」活用 ◆「教育コンテンツ」+「教え方」もZoomのレコーディングを活用してデジタル化する ◆コンテンツのアップデートも考慮した「教育体系」がデジタル化時代には必要 第6回目:難易度の高い業務ほどOJTという名の人任せでなく教育方法を「研究」する ◆教育する事が良い事であると勘違いしている ◆難易度が低い業務ほどマニュアル化(明確化)されているが、なぜか難しい業務ほど人任せの現実 ◆習得に時間がかかる(難易度の高い)業務ほど、ノウハウの現場の職人依存の現状 第7回目:教育することも工数がかかる。教育工数を削減も ◆「コンテンツ化」すれば、教育する工数を減らせる(人が教えなくて良い状態」を作る) ◆教育の「コンテンツ化」=「教育する工数削減」=「技術伝承がしやすい環境」 第8回目:製造業の評価制度はスキルが明確でなくければ上辺だけに評価制度になる。(人材育成と評価制度の関連性)
注目企業の事業分析 | ||||||
業界 | 企業名 | 事業内容 | 第1四半期 | 第2四半期 | 第3四半期 | 期末 |
半導体製造装置 | レーザーテック(株) | 半導体マスク欠陥検査装置等製造 | 9月 | 12月 | 3月 | 6月 |
ローツェ(株) | ウエハ搬送システム、FPD製造装置等 | 5月 | 8月 | 11月 | 2月 | |
工作機械・産業用ロボット | ファナック(株) | CNC装置、工作機械、産業用ロボット製造 | 6月 | 9月 | 12月 | 3月 |
最新の経済指標をグラフ化して見ることによって、経済トレンドを把握することが重要。工作機械受注高、鉱工業生産指数、製造業国賠担当者指数(中国)(EU)、設備稼働率(米国)等を押さえておきましょう。
経済指標名 | |
産業機械 受注統計 | |
工作機械受注高 | 鍛圧機械受注 |
機械受注統計 ※1 内務省HPへ | |
機械受注高 (産業用ロボット) | 機械受注高 (建設機械) |
製造業購買担当者指数 | |
製造業購買担当者景気指数(日本) | 製造業購買担当者指数【PMI】(ドイツ) |
製造業購買担当者指数【PMI】(中国) | 製造業購買担当者指数【PMI】(ユーロ圏) |
製造業景況指数【ISM】(アメリカ) | |
鉱工業指数 | |
鉱工業指数(生産)四輪自動車・自動車部品 | 鉱工業指数(生産)電子デバイス・電子部品 |
鉱工業指数(生産)生産用機械工業 | 鉱工業指数(生産)電気計器・計測器 |
鉱工業指数(生産)半導体・液晶製造装置・半導体部品・液晶パネル | 鉱工業指数(生産)計測分析機器・精密測定機 |
鉱工業指数(生産)工作機械 | 鉱工業指数(生産)金属製品工業 |
鉱工業指数(生産)機械プレス | 鉱工業指数(生産)炭素繊維 |
鉱工業指数(生産)産業用ロボット | 鉱工業指数(生産)水晶振動子 |
鉱工業指数(生産)航空機部品 | 鉱工業指数(生産)段ボール箱・板 |
鉱工業指数(生産)建設機械 | 鉱工業指数(生産)プラスチック製部品 |
鉱工業指数(生産)食品・包装機械 | 鉱工業指数(生産)ファインセラミックス |
鉱工業指数(生産)ポンプ・圧縮機・油空圧機器等 | 鉱工業指数/設備稼働率(アメリカ) |
鉱工業指数(生産)普通鋼・特殊鋼等 | |
生産統計 | |
建設機械生産統計(金額・台数) | |
貿易統計 | |
貿易統計 商品別輸出額(全体) | 貿易統計 商品別輸出額(電気機器) |
貿易統計 商品別輸出額(一般機械) | 貿易統計 商品別輸出額(輸送用機器) |
特定サービス産業動態統計調査 | |
機械設計業 | エンジニアリング業 |
その他 | |
ハイテクノロジー産業の国別付加価値額 | |
貿易収支 | |
景気動向指数 |