製造業経営コンサルタントの井上です。
製造業の分野でもテクノロジーの進化が目覚ましい。
その様な中、製造業で言われる「熟練」や「職人」の世界にもテクノロジーによって変化がもたらされてきている。
これは歴史的に見ても明らかです。
人での金属加工 ⇒ 汎用工作機械 ⇒ NC工作機械 ⇒ CNC工作機械
など、機械化によって変化してきている。その変化は「コモディティ化(一般化)」の方向へ向かっている。
先日、twitterでツィートしても反応が高かった。
🟩最近、熟練って凄いの?について考えている
・技術:マニュアル化できる知識(方法・手段)
・技能(熟練):知識そのものではなく、さまざまな事態や状況に対応できる判断力(判断基準と決断力)とそれを行う行為・能力
製造現場には手作業と機械を使用した作業がある
(つづく)
— 井上雅史@ものづくり企業 経営コンサル 上席コンサルタント (@masashi_i) January 29, 2022
数十年後の未来を考えると、
「昔は人が物を作っていただんだ。。。」
今後の製造業の現場の「技術」「技能」を考え、高度な技能である「熟練」「職人」とは?また経営レベル、現場レベルで考えなくてはいけない事は何かを考えていきたい。
前提条件
なぜ、製造業の「熟練」はテクノロジーによってコモディティ化に向かう背景、前提は、今後、生産年齢人口の減少激しいことと、テクノロジーの進化の2点あります。
1.生産年齢人口の減少
2.テクノロジーの進化
1.生産年齢人口の減少
現在の日本は徐々に人口減少が始まった段階です。人口ピラミッドを見てみると下図のようになってます。
要するに、若年層の人口がかなり前から減っています。この状況が企業に与える影響として大きのが、労働者の人口がもう既に大きく減っており、今後も減り続けます。この労働者の人口に当たる「生産年齢人口」を現実(ファクト)をしっかり認識する必要があります。
「生産年齢人口」を都道府県別で見た場合、かなりの厳しい現実が見えてきます。
この状況の中で以下に「技術」「技能」また「熟練」を継承していくのかが近々の課題であり、その「熟練」とは何かを再定義していく必要があります。
2.テクノロジーの進化
「熟練」に影響を与える要素としては昨今のテクノロジーの進化が挙げられます。特に半導体の進化に伴う各種機器・装置の高度化による進化が「熟練」に大きな影響を与えています。
- テクノロジーの進化
- 半導体
- 通信
- IoT
- AI
- 画像処理 などなど
熟練(職人)とは?
熟練とは、高度な技能をもったモノ。モノとしたのは、人の場合もあり、機械の場合もあるということです。技能の前に、技術があり技術を包括したのが技能であると定義できます。
「技術」とは
まずは「技術」とはを考えてみたい。端的に言えば、
物事を行う為の手段・手順・方法 (マニュアル化できる知識)
と定義できる。更に分解すると
- 必要最低限の知識
- 手段・手順・方法
- 判断基準
となります。要するに、ドキュメントなどにマニュアル化できる知識とも言えます。
「技能」とは?
「技能」とは何か?改めて考えてみると奥が深いです。今まで言われていた、「技術」「技能」の定義に最近のテクノロジーの進化によって定義が変わってきています。
知識そのものではなく、さまざまな事態や状況に対応できる判断力(判断基準と決断力)とそれを行うことができる行為・能力と言えます。
物事をうまく行う技量・能力
更に分解すると「技術」を含みつつ以下の要素であると考えられる
- 正しい現状認識力
- 必要最低限の知識
- 手段・方法・手順
- 関連知識
- 因果関係
- 判断基準
- 適切な判断力
- 高い運動能力 ※手作業の場合
2、3、6の一部は「技術」と同じと考えられます。6の一部なのは、各種関連知識との因果関係を考慮した「判断基準」が必要あるからです。「技能」は「物事をうまく行う技量・能力」であり、「技術」を使って成功させることになります。
次のテクノロジーの進化した現在は、この「技能」を手作業と機械等を使用した作業によって考え方が大きく違ってきます。
手作業と機械等を使用した作業における「技術」「技能」の考え方
今までは手作業がベースとなって「技術」「技能」及び「熟練」が語られてきました。もう既に機械化・ロボット化、ソフトウェアによるデジタル化作業がかなりの部分を占めている。そのテクノロジーの進化による手作業と機械を使用した作業における「技術」「技能」の考え方を整理していきます。
手作業
製造業現場での「手作業」は、工具を使用してきさげなどは有名ですが、ハンドルーターを使用した作業や溶接する作業がイメージされます。更に汎用旋盤なども人間の身体に宿る経験と能力によって事を成す作業もあります。
これはら「手作業」は、判断力(判断基準・決断力)と行為の組合せであり、「高い運動能力」が必要になります。人間の身体を使用して、正確に作業をこなす身体能力。手作業はまだハード的(機械化)に再現できない部分も多いです。れは今後も熟練・職人として残っていきます。
機械等を使用した作業
機械等を使用した作業は、NC制御の工作機械がイメージできると思います。先程、上げた溶接もロボットに溶接をさせると機械等を使用した作業に分類されます。
機械等とは、産業機械やロボットなどのハード的な装置・設備・機械、ソフト的なモノは、画像処理、制御、IoT、生産データを使用したAIなどがあたります。
これあら機械等の機能がテクノロジー(多くは半導体等)によって高度化しつづけています。わかりやすいところで言えば、昔は電話、今はスマートフォンというように、高機能化・高速化しています。今後も更に半導体の進化を中心により高度化・高速化へ向かっていく過渡期になります。
従って、機械等についての高度な知識がより重要になり必要となります。
テクノロジーの進化が熟練に及ぼす影響
テクノロジーの変化は、ソフト面とハード面で現れる。現在は、頭脳である半導体の急激な進化によって、ソフト面・ハード面のテクノロジーの変化が激しくなっています。
この辺りは、以前の記事をご覧ください。
(ソフト面)設計・モデリング・プログラミングの高度化
製造業におけるソフト的な進化として、様々挙げられる。
- CAD/CAM :CAD(Computer Aided Design)、CAM(Computer Aided Manufacturing)
- CEA(Computer Aided Engineering)
- CAT(Computer Aided Testing)
- 自動NCプログラミングソフト
- モデリングソフト
- 画像処理
- 機械のPC制御化 etc
設計開発 → モデリング・シュミレーション → プログラム自動化のように、製造に入る前段階における部分をソフトウェアで行い、現在はより高度化・高速化してきている。
(ハード面)作業・加工の機械化・ロボット化
ハード面での作業・加工の機械化の進展は、各産業機械の複合化やロボットを用いたロード・アンロードを含めた供給→加工→排出の自動がかなり進みつつある。これは作業・加工を専用機で加工させている場合である。
ロボットの活用が進んで来ており、ロボットハンドやエンドエフェクトの高度化・標準化が進み、より現場に導入しやすくなって来ています。ロボットにおいてはティーチングもより簡単にできる方向になってきており、画像認識を標準で備えた「テックマン・ロボット」も従来のロボットメーカーからでなく、EMSの受託製造業から発売されるなど、進化が進んでいます。
先程の設計や加工プログラミングの自動化と作業や加工が機械・ロボット化が連動されることによる、製造現場のより自動化が推進されます。
データ収集
あらゆるコトがデジタル化してデータ化されて、IoTに収集されることでより精度の高いソフトや補正が可能となり、機械での作業・加工のレベルが上がります。データが貯まることによって、AIが活躍できる分野も増えてくる。そうなるとより柔軟で且つ正確な作業を機械・ロボットにさせることができる世界がきます。
まとめ
更には、機械化が進みデータが取得できたら作業によりますが、データを活用するというデータサイエンティストが必要なります。その先にはAIの活用できる製造現場も増えてきます。
製造現場の「行為」が機械等が行う時代なので、機械等を知ること、データを活用することこそが、今後の製造現場につような「熟練」となります。
いままで求められていた「技能」「熟練」の割合は時間とともに、減少していく世界が来てます。
設備年齢が高い日本における課題
「熟練」の要素である「技能」には、手作業と場合、機械等を使用した時の「技能」に分かれると前述した。機械等を使用した時の「技能」は昨今のテクノロジーの進化によって、大きく「技能」「熟練」の要素を変えてきている。
しかし、日本の機械(設備)の設備年齢の上昇が「技能(熟練)」へ影響を与えている。要するに、機械(設備)年齢の上昇しているということは、現場の設備が更新されておらず、古い設備を使用した「技能(熟練)」になっており、時代にあった「技能(熟練)」になっていない。更に、古い設備であれば有るほど、IoTなどで生産データを取りづらく、取れるデータの種類にも限界がある。
製造業における業種別のビンテージの推移
製造業の設備の経過年数が多くが15年以上。。|「ものづくり白書」から学ぶシリーズ
「技能」が高い「熟練」が称賛されることもあるが、機械等を使用した作業においては機械等の設備年齢の違いによる「技能」「熟練」の意味合いが違ってくる。
また機械等は最新であればあるほど、機能・精度・スピードが上がり、通信への接続に関しては容易になり、機械等でできることが多くなり高度がすることが一般的である。設備年齢を使用し続ける製造業と設備更新を適切に行なっている製造業とでは、「技能」「熟練」の意味合いが違い、レベルも違ってくる。設備年齢が古い機械の方が、人に依存し機械毎の癖も熟知しなくていけなく、扱いづらくて、機能・精度・スピードが最新機種には劣っている。
古い機械での熟練と最新の機械を使用した熟練に分かれることから、日本の多くの熟練は古い機械に紐付いた熟練という点が問題であると考えられる。
「熟練」はテクノロジーによってコモディティ化に向かう
デジタル化・データ化できれば自動化が進み「技能」で無く「技術」になる。今までの経験によってしか得られなかった「技能」という概念が、ハード・ソフトの自動化する「エンジニアリング力」と自動化した製造現場のデータを活用したデータサイエンティストが重要になってくる。
「熟練」はテクノロジーによってコモディティ化に向かう。
これは日本国内だけでなく、海外でもできる人が増えることを意味します。相対的な競争力を無くなることを意味します。
単純に考えると、製造現場で使う「ツール」が高度化しただけである。この高度化した「ツール」を使い、使いこなすことが現在は求められているのです。変化に適応して、現在、今後の「技能」「熟練」は何か再度、確認して現場を革新してもらいたい。
【コラム】デジタル化時代の中小製造業の人材育成・教育シリーズ
< 目 次 > 第1回目:デジタル化時代の「ものづくりは人づくり」とは? 第2回目:今後の中小製造業の仕事は誰がやるのか? ◆「機械・ロボット」にさせる仕事 ◆「システム・AI」にさせる仕事 ◆「人間」がするべき仕事 ・誰でも出来る化 ・高度な専門職(職人) ・管理職 第3回目:中小製造業の人材育成・教育の実態 ◆大手に比べて人材の質も比較すると低く、教育の仕組み化も弱くのに教育していない現実 ◆OJTという名の丸投げ無責任体質で「教育品質」のバラツキが大きい ◆ISOでの形だけの教育計画 第4回目:「御社の社員の一人前基準・目安」は何ですか? ◆何が求められるスキルなのかを明確にする➜目次化 ◆職種別の一人前基準を明確にする ◆「一人前基準」は自発的に伸びる社員の道標になる ◆部品加工業におけるスキルマップの事例 第5回目:人材育成・教育は、コンテンツ化が重要。コンテンツ化して「資産化」しろ! ◆「目次」が出来たら、項目ごとに「コンテンツ化」しろ ◆デジタル化した「教育のコンテンツ化」はアップデート可能な「資産」 ◆「コンテンツ化」の手段としての「動画」活用 ◆「教育コンテンツ」+「教え方」もZoomのレコーディングを活用してデジタル化する ◆コンテンツのアップデートも考慮した「教育体系」がデジタル化時代には必要 第6回目:難易度の高い業務ほどOJTという名の人任せでなく教育方法を「研究」する ◆教育する事が良い事であると勘違いしている ◆難易度が低い業務ほどマニュアル化(明確化)されているが、なぜか難しい業務ほど人任せの現実 ◆習得に時間がかかる(難易度の高い)業務ほど、ノウハウの現場の職人依存の現状 第7回目:教育することも工数がかかる。教育工数を削減も ◆「コンテンツ化」すれば、教育する工数を減らせる(人が教えなくて良い状態」を作る) ◆教育の「コンテンツ化」=「教育する工数削減」=「技術伝承がしやすい環境」 第8回目:製造業の評価制度はスキルが明確でなくければ上辺だけに評価制度になる。(人材育成と評価制度の関連性)