ロシアへの経済制裁が

日本の製造業の与える影響を考える

製造業経営コンサルタントの井上です。

2月下旬から始まってしまったロシアによりウクライナ侵攻ですが、経済制裁を行うにあたってロシアと日本の輸出入の現状(ファクト)を把握していきます。

米ソ冷戦終了以降、西側諸国の企業は世界中にサプライチェーンを配置し、最も安い国から原料を調達し、最も労働コストの安い国で生産し、消費地に輸出してきた。最近では、地産地消も増えてきた。「最適生産」のシステムが成り立っていたが、ロシアのウクライナ侵攻でこの構造は崩壊を始めたと言えるのではないでしょうか。特に問題になるのが今後の中国の動きに如何によっては、大きくこの流れが進むことになる。

ロシアの世界の中での経済的位置づけ

名目GDP

ロシアの経済規模見てみましょう。名目GDPの順位が現在は11位の位置づけです。アメリカの約7%程度、日本と比べても約29%程度になります。既に大国というにはやや無理があり規模になっています。

また一人あたり名目GDPでは、66位と1万ドルを超える程度で共産主義での限界値と言われている1万ドルにとどまっている。(日本は約4万ドル)

国名順位2016年順位2017年順位2018年順位2019年順位2020年
米国118,695,100119,479,630120,527,150121,372,600120,893,750
中国211,226,900212,265,330213,841,810214,340,600214,866,740
日本35,003,68034,930,84035,036,89035,135,90035,045,100
ドイツ43,468,90043,689,55043,979,09043,888,76043,843,340
イギリス52,703,24052,664,71052,860,98062,833,30052,709,680
インド72,294,12062,651,47072,701,11052,870,50062,660,240
フランス62,471,26072,589,03062,789,68072,728,83072,624,420
イタリア81,876,55091,961,10082,093,09082,005,14081,884,940
カナダ101,528,000101,649,270111,721,820101,741,58091,644,040
韓国111,499,360111,623,070101,725,370121,651,420101,638,260
ロシア121,280,650121,575,140121,653,010111,690,050111,478,570
ブラジル91,796,62082,063,52091,916,93091,877,820121,444,720
オーストラリア131,266,200131,385,200141,421,190141,392,330131,359,370

(単位:百万US$ 出典:IMF)

指標直近データ単位国際順位出典
1人当たり名目GDP10,115US$(2020年)66位/195ヵ国IMF

その他経済指標等

指標直近データ単位国際順位出典
経常収支36,113百万US$(2020年)9位/189ヵ国UNCTAD
貿易収支91,847百万US$(2020年)4位/218ヵ国UNCTAD
貿易依存度38.56%(2020年)145位/207ヵ国UNCTAD
輸出依存度22.38%(2020年)89位/207ヵ国UNCTAD
外貨準備高(含む金保有)596,511百万US$(2020年)5位/124ヵ国WGC
外貨準備高457,018百万US$(2020年)7位/180ヵ国IMF

ロシアへの日本からの輸出額

日本からロシアへの輸出額全体では、輸出総額の約1%の割合です。全体で言えば影響は軽微と捉えることができます。次の商品別で見ていきましょう。

品名2018年度2019年度2020年度2021年度
価額構成比価額構成比価額構成比価額構成比
総額405,815100813,666100862,362100634,938100
1 食料品2,6250.64,2850.55,9520.77,5021.2
2 原料品4450.16850.18340.16620.1
3 鉱物性燃料3,1460.89,6961.28,0860.94,1090.6
4 化学製品10,4362.619,1622.426,232319,8173.1
 有機化合物5560.11,3520.23,7520.43,1470.5
 医薬品9030.21,9400.22,2100.31,8270.3
 プラスチック3,5200.94,8570.65,8170.75,0770.8
5 原料別製品37,3389.272,867971,1888.354,6498.6
 鉄鋼5,9571.57,6310.93,6430.45,2330.8
 非鉄金属3040.1407042203370.1
 金属製品4,5271.111,2301.412,2171.48,1181.3
 織物用糸・繊維製品1,3300.32,4920.32,4980.32,2190.3
 非金属鉱物製品2,6360.65,1690.64,6580.53,5580.6
 ゴム製品21,9855.444,9515.546,6235.434,1575.4
 紙類・紙製品4740.19480.11,1030.19960.2
6 一般機械65,79416.2139,39317.1173,95020.2123,33919.4
 原動機13,8853.430,2073.746,0885.330,6434.8
 電算機類(含周辺機器)17307190.135804830.1
 電算機類の部分品1040176027501680
 半導体等製造装置192026405090.12140
 金属加工機械4,6911.25,5980.72,7280.33,7020.6
 ポンプ・遠心分離機5,8161.413,8751.716,5681.913,2132.1
 建設用・鉱山用機械19,6074.843,3765.357,8986.734,5455.4
 荷役機械7,5011.817,3452.120,8332.415,3372.4
 加熱用・冷却用機器1,6200.43,7820.54,2750.54,1460.7
 繊維機械118015906310.11490
 ベアリング8800.22,0570.32,0770.21,5660.2
7 電気機器29,6637.358,5867.258,7346.853,2818.4
 半導体等電子部品3990.18120.15840.14970.1
 (IC)11059012201290
 音響・映像機器2,7660.74,4190.52,3740.32,7090.4
 (映像記録・再生機器)9610.21,6250.28450.11,1110.2
 (テレビ受像機)5860.13140620480
 音響・映像機器の部分品4060.19220.140703370.1
 重電機器1,5740.42,3100.32,9050.32,3380.4
 通信機3,2140.86,3100.86,3090.77,5191.2
 電気計測機器4,5361.19,7811.29,3721.17,0071.1
 電気回路等の機器1,6840.43,7410.53,8770.42,6650.4
 電池1,5710.41,6800.22,3840.32,1510.3
8 輸送用機器235,34958465,42157.2463,29253.7331,91252.3
 自動車187,41746.2365,00944.9357,46941.5257,49440.6
 (乗用車)176,64343.5327,93740.3313,78236.4234,99037
 (バス・トラック)10,7152.636,9404.543,6205.122,4443.5
 自動車の部分品44,6391194,86711.7100,05511.670,06411
 二輪自動車2,5580.63,9980.54,9770.63,4220.5
 航空機類402590801930
 船舶15505260.1400940
9 その他21,0185.243,5725.454,0966.339,6686.2
 科学光学機器4,01316,7790.87,7970.97,2081.1
 写真用・映画用材料6420.21,3680.21,3580.21,0570.2

(単位:百万円、%)

金額ベースで大きな商品のカテゴリー(分野)別では、やはり「輸送用機器」がトップとなり全体の約55%程度くらいです。金額は年度によって違いますが、4,000億円前後になります。2019年度 日本の輸送機器輸出額18兆781,8億円となり約2%程度です。

「輸送用機器」の中ではやはり「自動車」がほとんどを占めています。

次にカテゴリー(分野別)では、「一般機械」となり全体の約20%前後になります。金額的には年度によって違いますが、2021年度では1,233億円程度というところです。

「一般機械」の中では「建設用・鉱山用機器」ついで「原動機」「荷役機械」となります。

次のカテゴリー(分野別)では、「電気機器」となります。

ロシアから日本への輸入額

ロシアから日本への輸入額ですが、こちらも全体に占める割合は役2%弱と多くはありません。しかし、中身の多くのエネルギー資源関係となっている点が気になるところです。

品名2018年度2019年度2020年度2021年度
価額構成比価額構成比価額構成比価額構成比
総額782,1201001,675,9351001,548,8681001,087,036100
1 食料品52,6296.7148,4758.9143,1679.2100,8419.3
 魚介類49,8716.4143,9878.6137,4398.996,7728.9
 肉類004040
 穀物類2,4820.33,6980.21,2880.11,5580.1
 野菜840248023101580
 果実1010440320
2 原料品39,078575,1594.579,4565.153,4454.9
 木材26,1513.349,1452.953,4143.434,6893.2
 非鉄金属鉱4,8360.69,9530.68,2860.58,7480.8
 鉄鉱石2,1740.34,8280.35,4490.42,5970.2
 大豆6032015102160
3 鉱物性燃料537,32268.71,149,84668.6951,94161.5629,63957.9
 原油及び粗油181,68923.2408,27824.4257,77116.6161,28214.8
 石油製品72,0159.2109,3806.538,7202.537,1493.4
 (揮発油)55,5547.192,6585.538,7192.536,0313.3
 液化天然ガス171,09021.9358,30421.4372,35524243,07222.4
 液化石油ガス
 石炭112,36214.4273,45116.3282,82018.3187,70917.3
 (一般炭)65,3848.4163,1469.7195,71812.6123,11011.3
4 化学製品4,8280.611,9950.715,744116,1621.5
 有機化合物1,9710.36,6630.49,2350.611,0021
 医薬品190530440360
5 原料別製品146,85018.8287,44617.2348,56722.5278,80825.6
 鉄鋼18,7042.432,718245,4262.921,3572
 非鉄金属125,25916247,36014.8292,44118.9250,72923.1
 金属製品920127018201410
 織物用糸・繊維製品740122030902470
 非金属鉱物製品187046309430.16220.1
 木製品等(除家具)2,4230.36,0140.48,1240.55,0300.5
6 一般機械140022105,5690.44,1130.4
 原動機001005,2660.33,9890.4
 電算機類(含周辺機器)30110460420
 電算機類の部分品10304020
7 電気機器324057408160.15990.1
 半導体等電子部品1210334035103090
 (IC)2000
 絶縁電線・絶縁ケーブル9022049030
 音響映像機器(含部品)7060460130
 重電機器8908013040
 通信機401205040
 (電話機)
 電気計測機器25075015201600
8 輸送用機器1890331040502570
 自動車5909401220890
 自動車の部分品180230950240
 航空機類9101350730410
9 その他7590.11,8870.13,2040.23,1730.3
 科学光学機器1270169015701380
 衣類・同付属品2501420730490
 家具66099022001010
 バッグ類003000

(単位:百万円、%)

ロシアの資源の輸出・生産量等

指標直近データ国際順位出典
石油埋蔵量107,804百万バレル(2020年)6位/49ヵ国BP
石油生産量524,404千トン(2020年)2位/49ヵ国BP
石油(原油)輸出額83,200百万US$(2020年)2位/143ヵ国UNCTAD
石炭埋蔵量162,166百万トン(2020年)2位/34ヵ国BP
石炭生産量399,771千トン(2020年)6位/34ヵ国BP
石炭輸出額14,124百万US$(2020年)3位/133ヵ国UNCTAD
天然ガス埋蔵量37.39兆m3(2020年)1位/51ヵ国BP
天然ガス生産量638,490百万m3(2020年)2位/49ヵ国BP
天然ガス輸出額33,006百万US$(2020年)1位/113ヵ国UNCTAD
鉄鋼製品輸出額25,694百万US$(2020年)2位/215ヵ国UNCTAD
鉄鉱石輸出額2,996百万US$(2020年)8位/117ヵ国UNCTAD
ニッケル鉱石輸出額853百万US$(2020年)3位/68ヵ国UNCTAD
指標直近データ国際順位出典
マグネシウム生産量67,000トン(2019年)2位/9ヵ国USGS
マグネサイト生産量1,500,000トン(2019年)2位/21ヵ国USGS
ウラン生産量2,846tU(2020年)7位/26ヵ国WNA
ウラン埋蔵量486,000tU(2019年)4位/16ヵ国WNA
モリブデン生産量2,700トン(2020年)8位/14ヵ国USGS
ニッケル生産量272,000トン(2018年)3位/29ヵ国USGS
ニオブ生産量462トン(2019年)3位/11ヵ国USGS
タンタル生産量26トン(2019年)10位/13ヵ国USGS
アンモニア生産量15,000千トン(2019年)2位/64ヵ国USGS
リン鉱石生産量13,100千トン(2019年)4位/36ヵ国USGS
パラジウム生産量93,000kg(2020年)1位/9ヵ国USGS
プラチナ(白金)生産量23,000kg(2020年)2位/11ヵ国USGS
白金族金属生産量3,054kg(2020年)3位/4ヵ国USGS
カリウム生産量7,340千トン(2019年)3位/15ヵ国USGS
レアアース生産量2,700トン(2018年)6位/12ヵ国USGS
チタン生産量4,000トン(2019年)20位/21ヵ国USGS
タングステン生産量2,200トン(2019年)3位/23ヵ国USGS
パナジウム生産量19,533トン(2020年)2位/5ヵ国USGS
亜鉛生産量260,000トン(2019年)10位/51ヵ国USGS
ジルコニウム生産量7,400トン(2019年)15位/19ヵ国USGS
アルミニウム生産量3,639千トン(2020年)2位/41ヵ国USGS

まとめ

まとめ
ロシアのウクライナ侵攻による各国の経済制裁による日本の製造業にどう影響するかが近々に知りたいと思いファクトを先ずまとめた。
日本からの工業製品の輸出は、概ね1%程度のであり、それほど直接的な影響はない。しかし、エネルギー資源の輸入があり、またEUへのエネルギー輸出が多く、間接的にコスト増の影響が大きく各種産業等に影響を広範囲にあると予想できます。この辺りは、「ロシアの資源の輸出・生産量等」での生産量や輸出額が世界の5位以内に入っているエネルギー資源が入っていることから容易に想像できます。
ロシアが他国への侵攻により、今後、中国が台湾併合など、共産国と言うより親米国家か反米国家かによる分断を起こる影響の大きさが懸念されます。
今後2030年までのEV化や半導体の進化による産業構造の変化が過去ないほど大きく変化する中で、地政学リスクが大きく加わって変数が大幅に大きくなっています。常に情報収集しておいてください。スピードが早い時代ほどファクトをできるだけ押さえることがリスク低減に繋がります。