景気後退だが現場が忙しい謎
製造業経営コンサルタントの井上です。
2022年初めは半導体製造装置などの需要が高く、景気が好調であった。しかし、2月にロシアがウクライナ侵攻がはじまりEUに経済的にダメージを与え続けている、そんな中、アメリカの景気が絶好調で遂にFRBが利上げに踏み切った。そして140円を大きく超える円安となった。
様々な要因が重なったのと、景気循環の波が景気の頂点のタイミミングであったのも合わせて、景気後退期に入った。しかし、日本での装置業は注残を抱えつつ、受注高も業界・分野によるが高い水準を維持している。通常、景気後退期に入る前から設備受注や生産が落ち込むのが通例であるが、今回はどうも様子が違う。その部分を探っていきます。
製造業全体の景気動向と今までとの違い
世界の製造業の景状を製造業購買者担当者指数(PMI)で大きな流れが把握できます。これとは別に全体の景気を把握する統計として「工作機械受注高」があります。いわゆる景気先行指数の一つです。
この2つは今までは、同じ動きをすることが多かったです。今年に入って、ウクライナ侵攻による景気後退に拍車がかかりつつ、部品不足から生産ができない状態がつづいています。その結果、製造業購買者担当者指数(PMI)が下降して、2022年10月現在、景気縮小の50以下に日本を除くて主要国が入ってしまいました。
製造業購買担当者指数(PMI)は、設備から耐久消費財等々様々な製造業の財の合計の景気指標で、景気先行性があり早い段階での景気動向がわかります。
PMI(Purchasing Manager’s Index:購買担当者景気指数)とは、企業の購買担当者らの景況感を集計した景気指標のひとつです。国別や、製造業、サービス業ごとの集計も行われており、米ISM(Institute for Supply Management)やIHS Markit社が公表しているものが有名です。一般的に鉱工業生産や雇用統計などの統計よりも景気先行性があるとされ、株式等の運用担当者の注目度が高い指標のひとつと言えます。(SMBC日興証券HPより)
また、工作機械受注統計と機械受注高も景気先行指数として見ています。このPMIと工作機械受注統計、機械受注高が今まではほぼ一致していたのですが、ここに来て大きく乖離しています。
上記、工作機械受注統計の外需向けが以前の景気の波とは違い、上昇後、比較的高い水準を1年程キープしています。機械受注高に至っては、2年以上外需向けの高い水準を維持しつつけています。
工作機械は、機械を作る機械ととして「マザーマシン」と言われています。他の産業機械を作る為に工作機械が設備投資されます。比較的、後退期には早い段階から下降トレンドになることが多かったのです。
ちなみに下記のグラフは、日本の鉱工業生産指数(全体)ですが、そもそも景気が良くない状態を見て取れると思います。
PMIや鉱工業生産指数から見ると明らかに景気後退期ですが、いつもはより早く下降トレンドに入る工作機械や他の機械受注が高い水準を維持してます。これは、次の鉱工業生産指数(財別)から見てもよりはっきりみることができます。
鉱工業生産指数 財別の説明
今回の経済指標として鉱工業生産指数の財別も見ていきます。今まであまり出してきていないので、少し説明していきます。
鉱工業生産指数とは、鉱工業製品(496品目)を生産する国内の事業所における生産の状況等(数量・重量・金額等)を経済産業省が調査し、「鉱工業生産指数」として毎月公表するものです。鉱工業製品には、鉄鋼、一般機械、電気機器、精密機器、輸送用機器、繊維工業品、紙・パルプ製品、食料品、たばこ、医薬品など数多くの品目が含まれ、国内事業所におけるこれらの製品の生産量を「基準年=100.0」として指数化し、鉱工業生産活動の全体的な水準の推移を把握するなどの目的に用いられています。
財の分類
鉱工業指数を財別分類にすると、以下のように分類されます。
鉱工業製品は、最終製品となる「最終需要財」と、原材料や部品として投入される製品となる「生産財」の大きくふたつに分類されます。さらに、「最終需要財」は「投資財」と「消費財」に区分され、「投資財」は「資本財」と「建設財」に、「消費財」は「耐久消費財」と「非耐久消費財」に、また「生産財」は「鉱工業用生産財」と「その他用生産財」に、以下のように定義し、区分しています。
財別の割合
鉱工業生産指数から資本財が高い水準の理由
鉱工業生産指数(財別)は、それほど見るべき部分が少なかった(?)のですが、ここ半年くらいから明らかに今までにない動きを見ています。
それは資本財や投資財、いわゆる機械や設備などの設備投資に関係する財が突出して上昇しているのがわかります。
資本財の内訳を見ても「製造設備用」が更に突出して上昇しています。
財の種類別の内訳(ボリュームを表す)の円グラフを見ると、全体量で見ると生産財が大きな割合をしめてます。ついで資本財が19%を占めて2番目に大きな割合を占めています。その資本財の特に工場でモノを生産するための「製造設備用」が大きく躍進しています。
鉱工業生産指数(財別)の資本財「製造設備用」が高い理由
鉱工業生産指数(財別)の資本財「製造設備用」が高い水準にいる代表的な理由は、明らかに半導体製造装置の需要が大きく、受注残を大きく抱え生産をしているということが言えます。
またその波及として、工作機械の鉱工業生産指数も高い水準を維持しています。(鉱工業生産指数は2015年を100としています。工作機械は2015年も高い水準であったため、現在も100以下ですが、実数でなく指数なので、高い水準でと表現しています。)
また工作機械受注の動向として、突出した動きが牧野フライス製作所の受注高に出ています。これは、ある関係者によると中国のEVメーカーである「BYD」関連の受注が多くあり、四半期連続して中国の受注が高い状態にあるということです。
リチウムイオン電池の材料である「セパレータ」や「電極」を生産する為のフィルム成形機械や塗工機械の大手のヒラノテクシードの受注高・受注残もここ1年以内で大きく伸びています。
そして、EV関連としてリチウムイオン電池の生産や先ほどもありましたEVの新しいラインへの設備投資が活発であるという状態が続いており、下記の産業用ロボットも高い水準を維持しています。
日本で生産された産業用ロボットの輸出比率が約80%あり、海外での設備投資が活溌であることを示しています。
まとめ
全体の景気を表す指標である「製造業購買者担当者指数(PMI)」と「鉱工業生産指数(全体)」の動きは景気後退を示している
ただし、整備関連の動向はまだ活況と言っていい
それを表す経済指標として「工作機械受注統計」の外需の動きが良くて高い水準を維持し、今までは「PMI」と近し動きをしていたが、ここ1年程違ってきている。
この減少を財別の鉱工業生産指数で見ると「資本財」が大きく伸長している。その中の「製造設備用」が突出して良い状況を表している
更にその内訳を探っていくと「半導体製造装置」「工作機械」「産業用ロボット」の鉱工業生産指数からよい状況であると見ることができる
また「EV」「リチウムイオン電池」の製造に対する設備投資投資は、「フィルム成形機」と「塗工機」メーカーの受注高・受注残から見ても高い水準と今後の伸びを見て取ることができます。
したがって、直近の民生品のスマホやハイスペックPCなどの耐久消費財などはやや落ち込む中、先行で投資して行かなければいけない「半導体」「EV」「リチウムイオン電池」に対する設備投資は今からが本格的な投資が始まり、当面続くと見ています。
最新の経済指標をグラフ化して見ることによって、経済トレンドを把握することが重要。工作機械受注高、鉱工業生産指数、製造業国賠担当者指数(中国)(EU)、設備稼働率(米国)等を押さえておきましょう。
経済指標名 | |
産業機械 受注統計 | |
工作機械受注高 | 鍛圧機械受注 |
機械受注統計 ※1 内務省HPへ | |
機械受注高 (産業用ロボット) | 機械受注高 (建設機械) |
製造業購買担当者指数 | |
製造業購買担当者景気指数(日本) | 製造業購買担当者指数【PMI】(ドイツ) |
製造業購買担当者指数【PMI】(中国) | 製造業購買担当者指数【PMI】(ユーロ圏) |
製造業景況指数【ISM】(アメリカ) | |
鉱工業指数 | |
鉱工業指数(生産)四輪自動車・自動車部品 | 鉱工業指数(生産)電子デバイス・電子部品 |
鉱工業指数(生産)生産用機械工業 | 鉱工業指数(生産)電気計器・計測器 |
鉱工業指数(生産)半導体・液晶製造装置・半導体部品・液晶パネル | 鉱工業指数(生産)計測分析機器・精密測定機 |
鉱工業指数(生産)工作機械 | 鉱工業指数(生産)金属製品工業 |
鉱工業指数(生産)機械プレス | 鉱工業指数(生産)炭素繊維 |
鉱工業指数(生産)産業用ロボット | 鉱工業指数(生産)水晶振動子 |
鉱工業指数(生産)航空機部品 | 鉱工業指数(生産)段ボール箱・板 |
鉱工業指数(生産)建設機械 | 鉱工業指数(生産)プラスチック製部品 |
鉱工業指数(生産)食品・包装機械 | 鉱工業指数(生産)ファインセラミックス |
鉱工業指数(生産)ポンプ・圧縮機・油空圧機器等 | 鉱工業指数/設備稼働率(アメリカ) |
鉱工業指数(生産)普通鋼・特殊鋼等 | |
生産統計 | |
建設機械生産統計(金額・台数) | |
貿易統計 | |
貿易統計 商品別輸出額(全体) | 貿易統計 商品別輸出額(電気機器) |
貿易統計 商品別輸出額(一般機械) | 貿易統計 商品別輸出額(輸送用機器) |
特定サービス産業動態統計調査 | |
機械設計業 | エンジニアリング業 |
その他 | |
ハイテクノロジー産業の国別付加価値額 | |
貿易収支 | |
景気動向指数 |